万物生々①
「物は生きている」と言ったら、半分は「そうだ」と言い、半分は「そうではない」と言うであろう。しかし物はすべて生きている。着物も、道具も、機械も、金銭も皆生きている。
大切につかえば、その持主のために喜んで働き、粗末にあつかえば、すねて持主に反抗するだけでなく、時には腹立てて食ってかかる。けがをするというようなことはこうした場合が多い。
朝ばん、道具を拝むようにして働く農夫や大工が、その道具でけがをするというようなことはない。不足不平でぶつぶつ言い、機械をかたきのようにいやがり、どれいにように酷使している人は、その機会の運転がまずく、時には大けがすることさえある。仕事に精根をかたむける人は、まず用具の手入れを十分にし、用具を大切にする。
用具をわが手足の如く大切にし、衣服をわが体のごとく愛するだけでなく、農夫は作物を、生産人はそれぞれの生産品を、わが子の如く愛し、慈しむ。そうした人たちによって、この上もないよい物が、たとえようもなくたくさん産み出される。
物を象徴し、すべての財を具象したのが金銭である。金銭の物質の中で、最も象徴し、すべての財を具象したのが金銭である。金銭は物質の中で、最も敏感な生物である。金銭はこれを大切にする人に集まる。ある富豪は必ずドウマキをもっていて、現金は肌身はなさず大切にして旅行した。ある人は、さつには必ずヒノシをかけてしわをのばして大切に保存した。人込みの中に行った時は、金入れを必ず手でおさえていた。