捨我得全①
「気がついたらすぐする」ことが物事をしとげる秘訣である。又大切なことは、十分に研究調査し、準備を完全にして、時がきたと思えば、一気かせいにやってやりぬく。おして押し通す。
しかし一度には出来ない事が多い。第一回にうまく行かねば、第二回、又第三回と、何度も何度もくりかえし、うまずたゆまずくりかえす。点滴石をうがつ、堅い土に棒杭を打ち込むようなもので、何度か打っている間にぎっしりと入って、もうこんりんざい動かなくなる。
また最初失敗すること、これは尊い月謝である。喜んで又改めてとりかかると、いつか大きい成功の栄冠がかがやく。しかし、どうしてもできぬ事がある。行くも帰るも、にっちもさっちも行かなくなる。その時である、古今独歩の妙手は、こうした無類の窮境に生れる。東西無比の秘術はこの時生れるのだと思って、何の未練も、予想も、後悔もなく、きれいさっぱりと捨ててしまう。