捨我得全②
こうした一生に二度と出会うことにない大窮地に陥った時こそ、度胸の見せところである。一切をなげうって、捨ててしまう。地位も、名誉も、財産も、生命も、このときどきどういう結果が生まれるであろうか。
まことに思いもよらぬ好結果が、突如として現われる。いわゆる奇蹟というのは、こうした瞬間に起こる、常識をはるかに超えた現象に名づけたものである。
重病人が、しずかに自分の転職を考えて、「ああ私は、畳の上で死ぬのではなかった、船乗りだった、よし船の上で死のう。かついて行って乗せてくれ」と、愛船にかつぎ乗せられた。その瞬間、死の直前にあった脚気が一時に直ったという。こうした体験は、会友の間では、奇蹟ではなく、もう常識になっている
事業の上でも経済の上でも、その他奇禍にあった場合でも、恐れ、憂え、怒り、急ぎ等々の私情雑念をさっぱりと捨てて、運を天に任せる明朗闊達な心境に達した時、必ず危難をのがれることが出来る。見事に窮地を脱することは、古人の体験であり、「窮すれば通ず」とは、このことをいうのである。
この事実は会友の幾百選の実験が、はっきりと証明するところである。